私は文章が書けない

OL院生の文章リハビリ基地

この世で最も虚しい共感――アニエス・ヴァルダの『冬の旅』

アニエス・ヴァルダの『冬の旅』で死に至る少女モナの旅の過程はあまりに哀しく痛ましい。モナと道中で関わり合いになる人々は、モナがいる間は一応彼女のことを気にかけるものの、離れた後に彼女の安否を気にして追いかけ探し回るような人はひとりも出てこ…

心の焼け跡で知と愛を貪るミューズ――佐々木千世(子)について

私が今までに読んだ紀行文で最も心奪われた作品は、稀覯本となって久しく、入手が不可能に近い。 佐々木千世(本名:佐々木千世子、1933-1970年)という人が著した『ようこそ!ヤポンカ』(1962)という本である。手元に置くことはできないが、国立国会図書館…

私は文章が書けない

小学生の頃、毎日欠かさずに日記を書いて提出するという宿題があった。 一冊の日記帳が毎日、担任の先生と生徒の(そしてひょっとすると親の)手から手へと往復するのである。 担任は国語教育に非常に熱心な先生だった。子どもの日本語力と想像力を鍛えるこ…

老人は踊り子の夢を見るか――伊藤郁女、笈田ヨシ『Le Tambour de soie 綾の鼓』KAAT神奈川芸術劇場 感想

2021年の年の瀬にKAAT神奈川芸術劇場で上演された伊藤郁女と笈田ヨシによる『Le Tambour de soie 綾の鼓』が大変素晴らしかった。 久しぶりに「この舞台に出会えてよかった」と思えた作品だった。自分の心に響く作品とそうでない作品、どちらに当たるか蓋を…

人生最高のドライブ

ドライブ中の光景や会話って、妙に生々しく記憶に残る。映画『ドライブ・マイ・カー』を観て、そんなことを思った。実体験として、「車に乗せてもらった」というだけのことなのに、心の隠し扉のようなところに、何か重要で謎めいた出来事として仕舞われてい…

まだ見ぬ函館の夜景

遠く小さく、それでもなお視界から消滅してはいない星のような記憶の話。 学生時代の一時期、私はとあるオフィスビルの中でワゴンでコーヒーを売り歩くアルバイトをしていた。就業時間を店舗の狭い空間内でやり過ごす苦痛がなく、また売り歩く順路やペースも…

水を潜り生と向き合う――映画『Waves』感想 2020年冬

最近観に行こうと思っていた映画を悉く見逃している。気休めに過去に映画館で観て心に残った作品を遡っていて、イギリス留学中に観に行った映画『Waves』の感想メモを掘り起こした。レビューの印象などは当時のもの。日本公開前の話。 南フロリダの広大で美…

ベルリン・ユダヤ博物館、ホロコーストの塔の体験 2016年夏

ドイツをふらふらと遊学していた2016年の夏、私はベルリン・ユダヤ博物館を訪れた。徒歩圏内にBerlinische Galerieという、ギャラリーというよりは美術館規模の施設があり、そこへ行ったついでに足を延ばしてみることにしたのだ。 Googleマップの経路に従っ…